以前の私は、家のことや予定をひと通り終えてからでないと、自分の時間を使ってはいけないように思っていました。少し空いた時間があっても、スマホを見ながら次にすることを考えたり、気になった場所を片づけ始めたりして、結局は休んだ気がしないまま一日が過ぎていきました。
50代になってから、忙しい日が続くと、何をしたいのかさえ分からなくなることがあります。好きなことをする時間を大きく作ろうとしても続かなかったので、今は暮らしの途中に小さな区切りを置くようになりました。ノートに書くこと、好きな音楽を聴くこと、香りや灯りを選ぶこと、少し外を歩くことです。
ある日、何も決められない自分に気づく
ある日、やることを終えてソファに座ったのに、何をして過ごしたいのか思いつきませんでした。本を開いても文字が入ってこず、テレビをつけても落ち着かない。休みたいはずなのに、休み方が分からなくなっていたのだと思います。
そのとき、テーブルにあった小さなノートを開き、「今日はなんだか疲れた」と一行だけ書きました。書いたあと、昔よく聴いた曲を小さく流して、窓の外が少し暗くなるのを眺めました。それだけで、何か特別なことをしなくても、自分のところへ戻ってこられるような気がしました。
以前は、時間を有意義に使えなければもったいないと思っていました。今は、頭の中をいったん静かにして、その日の気分を確かめる時間も大切にしています。

何をするか決められない日は、何も決めずに一行だけ書くことがあります。
ノートに書いて気持ちを確かめる
以前は、日記を書くなら続けなければと思っていました。きれいな文章を書こうとして、何日か空くとノートを開きにくくなったこともあります。
今のノートには、その日に気になったことや、うれしかったことを短く書きます。「洗濯物がよく乾いた」「返事を急がなくてよかった」など、誰かに見せるほどでもないことばかりです。書く気分ではない日は、日付だけ書いて閉じます。
言葉にしてみると、頭の中で繰り返していたことが少し離れて見えることがあります。答えを出すためではなく、今の気持ちを置いておく場所として、ノートを使うようになりました。
好きな音楽を聴いて立ち止まる
家の中が静かすぎると、考えごとが大きくなることがあります。以前は、音楽をかけても家事をしながら聞き流すだけで、曲を楽しむ余裕があまりありませんでした。
今は、お茶をいれたあとに一曲だけ流すことがあります。若いころによく聴いた曲や、そのときの気分に合う静かな曲を選び、手を動かさずに聞く。短い時間でも、曲が終わるころには、さっきまで急いでいた気持ちが少し落ち着いていることがあります。
ある週末、懐かしい曲を聞いていたら、その曲を聴いていたころの景色や友人との会話を思い出しました。過去に戻るというより、自分の中にいろいろな時間が積み重なっていることを思い出すような、やわらかい時間でした。
香りと灯りで夜の空気を変える
以前は、夜になっても明るい部屋で家事の続きをしていました。終わらないことばかりに目が向き、眠る前まで気持ちの切り替えができないこともありました。
今は、余裕のある夜だけ、アロマキャンドルを灯したり、手元の小さな灯りにしたりします。香りが強すぎないものを選び、火を使うときはそばを離れないようにしています。灯りを落とすと、部屋に残っている用事が少し遠くに見えるように感じます。
毎晩同じように過ごすわけではありません。けれど「今日はもう急がなくていい」と思いたい日に、香りや灯りを選べると、夜を終える準備がしやすくなりました。

部屋の明るさを少し変えるだけで、夜の時間に区切りをつけやすくなりました。
外に出て空気を変える
家にいると、気になることを何度も見つけてしまう日があります。以前は、そのまま片づけや用事を続けて、気分を変えるきっかけを逃していました。
今は、近所を少し歩くことがあります。遠くまで行かなくても、玄関を出て空を見上げ、風の強さや季節の匂いを感じるだけで、家の中とは違う時間が始まります。歩く速さも距離も決めず、疲れている日は家の周りを一回りするだけです。
ある夕方、考えがまとまらないまま外へ出たとき、道ばたの植物に新しい葉が出ているのを見つけました。帰るころには悩みが消えたわけではありませんが、一つのことばかり見ていた気持ちから少し離れられました。
小さな時間で自分に戻る
以前は、自分を取り戻すにはまとまった時間が必要だと思っていました。今は、ノートを開く、曲を一つ聴く、灯りを変える、少し歩く。そのどれか一つで、忙しさの中に小さな余白を作れると感じています。
四つすべてをする必要はありません。その日の気分に合わせて一つ選ぶだけで、周りの予定に合わせていた気持ちを、少し自分のほうへ戻しやすくなりました。
これからも、何かを成し遂げるためではなく、自分の気持ちを見失わないために、小さな時間を暮らしの中に置いていきたいと思います。
PR
